OUTLINE

シールド概要

一般にシールド(shield)という語には盾という意味がありますが、ここでいうシールドとは電磁波に対する遮蔽物、あるいは電磁波を遮蔽することを意味します。またシールドルームとは、電磁環境を電磁気的に隔離することで外来の電磁波を遮断して室内に入らないようにするとともに、室内の電磁波が外に出ていかないように設計・施工された部屋のことです。本稿では、シールドならびにシールドルームの概要についてご説明します。

1.電磁環境とEMC

1-1.電磁環境

近年の各種電子機器の高度化や、携帯電話に代表される移動体通信の普及によって、私たちの生活における利便性は著しく向上しました。しかし、電子機器等の高速化や電子回路の高度化に伴い、これらから発生する電磁波はテレビ・ラジオの受信障害や各種電子機器に対する誤動作等の原因になってきました。
電気を使用する機器は、その動作時に電界や磁界を発生し、電磁波を放射します。同時に、機器に接続されている電源線の電圧・電流に変動を与え、不要なサージ波を発生させることがあります。また、放送局や携帯電話などの無線機器からも電磁波が放射されており、私たちを取り巻く環境には常に電磁界が存在し、電磁波が飛び交っています。
ある電磁界の中に存在している以上、すべての機器や装置はその電磁環境によって何らかの影響を受けており、場合によっては誤動作を起こしたり、壊れたりすることがあります。そのような事態を防ぐためには、電磁環境をできるだけ汚さないようにすることが重要であり、機器の動作によって生じる電源線の電圧・電流の変動や、機器から周囲に漏れる電磁界や電磁波を極力低減する必要があります。また、強い電磁環境下におかれた機器の誤動作を防ぐには、予めその電磁環境を把握し十分な耐性を持たせることが求められます。

1-2.EMC
電波利用が拡大し、電子機器が普及するにしたがって、使用している機器・システムが他の機器・システムから電磁妨害を受けることが大きな問題となりました。多様な機器へのコンピュータの搭載、パワーエレクトロニクス技術の普及、信号の高速化、機器の相互接続の増加、無線の使用の拡大などは、干渉問題の発生可能性やその影響の大きさをさらに増大させていると言えます。そこで今日では、妨害波の発生側でこれを抑える(EMI対策)だけでなく、妨害を受ける側でも電磁環境において性能劣化を起こしにくくすること(イミュニティ向上)が重要になっています。このように妨害を与える側、受ける側の両面を考慮した機器・システムの能力がEMC(電磁両立性)です。EMCは「許容できないような電磁妨害波を、如何なるものに対しても与えず、かつ、その電磁環境において満足に機能するための機器・装置またはシステムの能力」と定義されています。

2.シールドルームと電波暗室

2-1.シールドルーム

シールドルームとは、その内外の電磁環境を電磁気的に隔離するために設計された部屋のことで、使用目的および扱う周波数範囲によって静電シールド用・磁気シールド用・平面電磁シールド用の3種類に分けられ、電磁妨害波の測定室、電子機材を設備した病院の医療室、機密に係わるコンピュータールームなどに使用されています。
EMC対策でシールドという際には、この電磁シールド用を意味することが多く、電子機器のEMC対策やイミュニティ対策には、ほとんどの場合電磁シールドが適用されます。
電磁シールドの原理は、金網や金属板などの導電性材料が到来電磁波を反射する性質を利用しています。電磁シールドルームではこの導電性材料ですっぽりと覆う必要があります。

シールド効果の基準として次の表2のような目安があります。

表2 シールド性能とその効果
シールド性能 効果
10dB以下 ほとんど効果なし(鉄筋コンクリートの壁と同等)
10~30dB 最小限のシールド効果あり
30~60dB 平均(携帯電話が圏外になるレベル)
60~90dB 平均以上
90dB以上 最高技術によるシールド(テンペスト)

電磁波シールドルームを製作する際には空間に伝搬する電磁波をシールドするだけではなく、電源及び信号ケーブルを通して漏洩する電波ノイズをシールドする必要があります。また、出入りのための扉・窓・空調口などの開口部にもシールド対策を施す必要があり、シールドルームのシールド効果を左右するのは、まずこの開口部のシールド処理であると言えます。

2-2.電波暗室(電波無響室)

電波暗室は、部屋内部に電波吸収体を設置し電波を反射させず、テレビやラジオのような外来波の影響を受けないようにシールドを施した部屋です。一般的には床面には電波吸収体を置かずにシールド面を残すため、床面のみ電波が反射するようになっています(5面電波暗室)。人のいないような山奥を平地にして電波の発信源を置くと、大地からの反射はあるものの受信側では発信源からの直接の電波を受信したことになります。実際にこのような場所に設けられた実験設備をオープンサイトといいますが、それだけ広大な敷地ないし外来波の影響を受けることのない土地を確保することは多くの場合あまり現実的でないため、オープンサイトと同様の状況を人工的に作り出したものが電波暗室となります。
また、床面にも吸収体を設置し、宇宙空間を想定した6面電波暗室といった暗室もあります。

3.電磁シールドの施工

3-1.周波数

2 – 1でも述べたように、空間を外部の高周波電磁界の影響から保護することを電磁シールドといいます。電磁シールドの周波数範囲は10 kHz~40 GHzとされていますが、電波暗室の性能検査等をする規格により30 MHz~1 GHzまでが主流です。
上記周波数範囲で電磁シールドを構築した場合、性能検査を実施します。なお、検査は米軍規格MIL-STD 285や防衛庁規格NDS C 0012に従います。性能検査は通常、シールドを構築した時点で一度計測し(中間シールド検査)、中間検査にて要求性能を満たした場合、内装工事に入ります。内装工事完了後も計測を行い、シールドに不具合がないかを調べます(完成検査)。

3-2.電磁シールド材料

電磁波シールド効果(SE)はシールド材表面の反射及び減衰吸収によって得られ、一般にシールド材に入射した電磁波はシールド表面で大きく反射されます。
そのためにシールド材としては特性インピーダンスの小さいもの選ぶ必要があります。
SEはシールド材に入射した電磁波と透過電磁波の比で示され、次式で与えられます。

SE=-20log(Eo/Ei) =-10log(Po/Pi)

SE: シールド性能(dB)

Ei: 入射電界(V/m)   Eo: 透過電界(V/m)

Pi: 入射電力 (W)   Po: 透過電力 (W)

電波は電磁波の一種で、電界と磁界が伴って進む波です。電界に対しては銅、アルミニウム、などの導電性の高い方がよく、また磁界に対しては初透磁率が高い材料を選ぶ必要があります。

表3に各種金属の体積抵抗値と透磁率を示します。

表3 各種金属の体積抵抗値と透磁率
金属 体積抵抗率 (10-8 Ω・m) 透磁率
1.72 1
1.62 1
2.4 1
アルミニウム 2.75 1
マグネシウム 4.5 1
亜鉛 5.9 1
黄銅 5~7 1
ベリリウム 6.4 1
ニッケル 7.24 250
鉄(純) 9.8 300
鉄(鋼) 10~20 300
鉄(鋳) 57~114 -
21 1
パーマロイ 16 10000

4.電波吸収体

電波吸収とは、電波エネルギーが熱エネルギーに変換される現象です。例えば電子レンジは2.45 GHzという高い周波数の大電力の電波を食物に照射することにより、食物が電波を吸収し熱を発生するため、火を使わずに食物を熱することができます。
電波吸収材料は各種ありますが、大きく次の3つに分類できます。

1. 導電性電波吸収材
2. 誘電性電波吸収材
3. 磁性電波吸収材


・導電性電波吸収材とは、抵抗体、抵抗皮膜でこれに流れる導電電流によって電波を吸収させるものです。
・誘電性損失材料には、カーボンゴム、カーボン含有発砲ウレタン、カーボン含有発砲ポリスチロールなどがあります。広帯域特性を得るために、多層構造にして表面近くの減衰を少なくし、内部に入るほど大きな減衰を得られるようにします。
・磁性損失材料としてはフェライトが代表的です。整合する周波数は材質により、およそ0.3 GHz~1.5 GHzの範囲です。